研究ノートs8:<手の内のかいな返し>

 <手の内>という言葉は現在でも、「手の内を明かさない」などと日常的にも使われておりますが、これも「鎬(しのぎ)を削る」というような表現と同じく武術界に由来する言葉で、剣術界に語源があるとも弓道用語が先とも言われております。

 当会が現在、稽古研究している<手の内のかいな返し>は、最初、<かいな返し>をもっと精密にするという目的から発展しました。

 具体的に言えば、いままでの<かいな返し>に、腕の表裏の流れを加えることを試みました。そうしますと、小指側と親指側が掌のなかで区別されて働くことが確認され、その掌で相手の手首を掴むと大きな効果があることがわかりました。 ここから、胸背の働きで掌のなかを技として使うことができる、つまり<手の内>を使える、ということに気づきました。

 <手の内>が働きますと、柔らかな崩し系の技といたしましては、帯を取った握りを外す「帯取りはずし」や「入身突き」など、剛の用い方としては、 「四教」や「当身」などの技に顕著な効果が見られます。
■帯取りはずし
■入身突き
また、<手の内>という言葉が武器の握り方を指し示しているとおり、剣や杖の持ち方・操作として研究すると驚くべき効果があります。
 徒手技であれ武器技であれ、その腕を操作するのはともに体幹部の働きであるとして<かいな返し>を稽古研究してきましたが、もう一歩踏み込んで考えてみれば、最終的に、武器を握り操作するのは、腕の末端にある掌であり、また徒手であれば、相手に触れているのは多く掌でありますので、その掌に体幹部の働きが腕を通して、正確に掌に伝われば、効果的なのは当然と言えます。

   しかし、正中線(背の流れ)での腕の操作を、もう少し精密にすれば、<かいな返し>の効果がさらに大きくなると考えたきっかけは、様々な偶然と先人の教えによるものです。
 この場合の「精密」という言葉の意味は、複雑化するということではなく、より自然にという意味です。

 身体操作というと、普通の人がしないような人工的な意識操作を身体に加え、奇妙な効果を出現させるような印象をもつかもしれませんが、そのような身体操作であれば、あまり意味はなく、本来の目的は、いろいろな原因で身体の奥底に眠ってしまった、人間の自然で繊細な働きを覚醒させるものだと考えます。

 腕に表裏の働きを表すと大きな効果が得られることは、甲野先生からすでに教示されていたことですし、また、他章で述べましたように日本伝合気柔術八景学院支部の講習会で、撓骨の働きを学んだことにもよっています。

   また、「技法としての<かいな返し>2」では伊藤昇氏の次の文章を引用いたしました。

《「小指側でリードして腕を伸ばすと、助骨に連動して身体側面(助骨脇)が伸びる感覚がありますが、親指でリードした場合には、腕は伸びても脇には作用しないという違いがあります」という。それだけ小指側(尺骨側)とはもともと胴体の力がダイレクトに伝わりやすい構造をしているのだとも言えるだろう。》

 この指摘も参考に研究いたしました。
 当会の技法にそってこの表現を展開いたしますと、次のようになります。
 小指側は菱形筋を主体とした背の流れによって働き、親指というより、人差し指の示指根部分ですが、ここが胸筋を主体とした胸の流れによって働くと考えられます。この二つの働きが、腕の表裏の流れとなり、掌の人差し指側(示指根部分)の働きと小指側の働きとなり、<手の内>の働きを形成すると考えられます。
 <手の内>の効果を得るために最も重要なことは、一方を止めて一方のみを動かすのではなく、強弱やどちらを先に働かせるか、などの区別はありますが、両方を平行して働かせるということです。

   体幹部で腕を操作することを主眼においてきたいままでの<かいな返し>は、言ってみれば、胸背の働きを、腕で混ぜ合わせ、掌でせき止めていたとも言えます。
 別に表現すれば、<手の内>は「手」の「内」だけの働きだけではまったく不充分であり、腕や体幹部などの身体全体とつながっているからこそ<手の内>の働きをするのだと思います。

 <手の内>を使う要諦は、また章を改めて、まとめます。

平成21年8月8日


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