研究ノートs7:技法としての<かいな返し>2

<かいな返し>については「研究ノートs5」に述べましたが、その後にいくつか確認できたことがあります。
 「研究ノートs5」では、「肘を境に、前腕と上腕が逆方向に回転する」という基本的認識に、「意識して前腕をひねるようにすると、精妙な崩しを掛けることができません」というただし書きをそえておりますが、いくつもの技に適用してみますと、「意識して前腕をひねらない」というよりも、写真図のように前腕は、静止させるか、むしろ自然に伸ばすようにし、その分、つまり前腕の回転が抑えられた分、上腕と肩が逆方向に回転すると応用したほうがよいようです。

 繰り返しになりますが、またこれは当会としての見解ですが、<かいな返し>は、正中線の働きで腕を操作することが現在の目的ですので、あえて働きに順序をつければ、写真図のように、@正中線、A上腕、B前腕、の順になります。これはまた働きにくいところから働かせる順でもありますので、習熟するにしたがって、全てがほとんど同時に働くようになります。

 他の章でも述べておりますが、接触した相手に<かいな返し>を働かせますと、それだけで、つまり腰を落としたり体を開くなどの動作を加えなくとも、相手はバランスを失います。
 使い方や個別の技への適用のさせ方は、現在も研究中で、これ以上ふみこんだことはいえませんが、例えば、小指です。<かいな返し>で、小指側の働きを強調しますと、相手の崩れが大きくなることがあります。
 たぶんこのことに関連すると思われる記述が、亡くなられた『胴体力』の伊藤昇氏の著作『伊藤式胴体力トレーニング「胴体力」入門』に、次のようにあります。

《胴体力では腕を捻る場合、肩の高さを基準にして、それより下で腕を捻る場合は親指でリードする内捻り、肩より上で捻る際には小指でリードして外へ捻るのを基本としているが、「小指側でリードして腕を伸ばすと、助骨に連動して身体側面(助骨脇)が伸びる感覚がありますが、親指でリードした場合には、腕は伸びても脇には作用しないという違いがあります」という。それだけ小指側(尺骨側)とはもともと胴体の力がダイレクトに伝わりやすい構造をしているのだとも言えるだろう。》

 以上は、<かいな返し>の使い方のおおきなヒントになると思います。余談ですが、伊藤氏のこの表現は仁王像の両腕の動きを連想させます。
 さらにもうひとつ、別の著作からの引用をおこないます。
 赤羽根龍夫氏の『柳生新陰流を学ぶ』です。剣の握り方について、次のような表記があります。このことも以上にのべてきたことと関連があると思います。

  《太刀は中指、薬指、小指と均等に力を入れて握ります。さらに巌周伝新陰流では剣道のように人差し指と親指の間をすぼめないで丸く握ります。この丸くなった指の間を「龍の口」と呼び、特に重視します。》

 「人差し指と親指の間をすぼめないで丸く握る」のは、撓骨を固定せず、自由に働かせるためであり、つまり<かいな返し>の効果を得るためのように思えます。
   最後に<かいな返し>がもたらす<浮き>について述べます。<浮き>については、別章をたてており、ここではその章との関連についてはふれませんが、膝を柔らかくして<かいな返し>を使うと、とくに前段にありますように「前腕の回転が抑えられた分、上腕と肩が逆方向に回転する」ように働かせますと、この操作でも<浮き>がかかります。
 当会では、この現象を、合気道技の四教、剣術、杖、当身などの技法に応用し、稽古研究いたしております。

 どれも、アソビがとれた腕を通して、また<浮き>によって本当の意味で体重を技法に加えることができるので、効果的になります。
 剣術を例にとりますと、剣の振りかぶりや突きを<かいな返し>でおこないますと、初動がわかりにくく、<浮き>がかかるので居着きを消すことができ、また肩のアソビがとれていますので、非常に威力のある技となります。

平成21年6月19日


トップに戻る