研究ノートs6:〈浮き〉について2

研究ノート3:「沈身・〈浮き〉について」では、『〈浮き〉とよべる状態は、効果的な沈身(落下)と、もうひとつ、たぶん深層筋を伸筋として使うことによって身体内部に発生する〈浮き〉の二つがあると考えられます。』とし、前者の沈身・〈浮き〉について述べましたが、ここでは後者について、稽古研究している内容をできるだけ具体的に記述してみます。

1.体軸の感知
 当会では、浮く体感や上に吊り上げられる体感を得る為に、まず体を支えている軸を意識することから始めています。
 浮力は、この体軸上の一点(仙骨のあたり)に働くか、軸自体が体を吊り上げるように作用するからです。この軸は正確な身体の中心軸と一致するかどうかはまだ分かりませんが、仙骨のすぐ前を垂直に走る軸で、身体を支えていると感じられます。(以降、体軸と呼びます。)
 この体軸を得るために次のように身体操作を重ねてゆきます。


  @膝を緩めて、上体を直立させて立ちます。
 A正中線で身体に割りの感覚を入れます。
 Bここから、体軸だけを残すように身体の余分な力を削いでいきます。体軸さえ正確に垂直に立っているなら、それ以外の体にある力は、立つという目的から言えば、無駄な力といえます。逆に言えば、無駄な力で蔽われているから体軸が感得できないともいえます。
 C丸太のように立っている身体の力を、外側から削いでゆき、身体の中心にある一本の細い垂直の体軸を削りだすようなイメージです。
 D外側から力を削いでゆくとしか表現できませんが、身体の両体側、つまり、くるぶし・大転子・肩の、垂直のラインの力をぬきます。つぎに、胸・腹面と背中の面の力を抜きます。
 Eさらに、内観できる限り、仙骨のあたりを通っている体軸に向かって、足首からしたの足裏部も含めて、力を垂直に力を抜いてゆきます。ですから、当然、拇指球の力も早い段階で抜いてゆきます。


以上のように操作してゆきますと、身体が揺れ始めます。この段階を、体軸または中心点を得た段階と考えております。
 揺れはじめたのは、丸太のように身体を維持している段階から細い軸または点で自分を支えている状態へ移行したと考えられるからです。
 ここに、〈浮き〉がかかります。
 また、以上は、深層部に操作性を介入させる操練にもなります。

2.垂直に沈める
 以上で〈浮き〉は発生するのですが、それを長く維持したり、技として使える浮力にするためには、体軸をブラさずに垂直に沈める必要があります。
 お風呂やプールの水面に浮いているボールを水中に押し込むような感覚です。水中に押し込んだ方が強い浮力を実感できます。
 中国拳法に「抗力」という言葉があり、それは、地面に向かって力をながすことで、得られる反発力のようなものと聞いております。むしろ、垂直に地面に力を流してそこから返ってくる力のことのようです。このことも参考になるように思います。

 ただ難しいのは、この「垂直に」という操作です。ボールもうまく中心をとらえて真下に押し込まないと、押し込む手にまとわりつくように水面を逃げて、手が浮力を逃がしてしまいますが、同じことが、このときの身体内部にもおきます。

 日常おこなっている身体を沈める動作は、「しゃがむ」ということです。この動作を自分自身で再現して観察してみればすぐにわかりますが、この動作は、 足はそのままに腰だけを沈めています。そのため、軸はどんどん後にずれてゆきます。垂直に落ちてはいません。
 ですから、少なくとも、腰が後にずれないように、腰を沈めなければ、強い浮力は得られません。
 この、垂直という感覚は、膝の抜き方にかかわっています。伝わりにくい表現になりますが、膝を抜くというより、膝蓋が真下に落ちるように崩れ落ちてゆくとよい結果が得られます。
   このとき、身体内部の中心部にある深層筋が伸筋になっているように感じます。それが、内部に〈浮き〉を発生させているのではないのでしょうか。

 以上、煩雑な表現になりましたが、体軸を感得するまでのことであり、感知することができれば、一瞬の自然な操作で〈浮き〉が得られるようなることは言うまでもありません。

 合気道開祖も学び、また大東流と関係が深いと言われる柳生新陰流に「吊り腰」という技法があると聞いております。名称から、身体の〈浮き〉に関する技法ではないかと想像できます。是非、その内容を知りたいものです

平成21年6月7日


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